ミラレパ(1052–1135頃) は、チベット仏教 カギュ派 を代表する大行者(ヨーギン)で、師 マルパ・ロツァワ のもとで厳しい試練を受け、洞窟での長期修行の末に 一生にして成仏 した模範として讃えられます。
即興の歌で教えを説く 『ミラレパの十万歌』 と、伝記 『ミラレパ伝』 は、チベットのみならず世界の仏教文学の金字塔です。
本記事では、史実と伝承を分けて整理し、ミラレパの生涯・系譜・思想・修行・主要弟子・聖地をSEOキーワードとともにわかりやすく解説します。
要点サマリー(最初に結論)
- 誰? カギュ派の大行者。師は マルパ、弟子は ガンポパ と レチュンパ。
- 何をした? 洞窟での極限の修行(蕁麻だけを食べて「体が緑色になった」伝承で有名)、トゥンモ(内なる熱) や マハームドラー を体得し、歌で衆生を導いた。
- 何が読める? 『ミラレパ伝』『十万歌』(ともに後世の編纂)。
- なぜ重要? 師資相承と瞑想修行の道を生涯そのもので証明し、カギュ派の理念(実践第一)を体現した祖師。
年表でみるミラレパ(伝承の骨格)
- 幼少期〜青年期:家庭の不幸から怨みを抱き、黒魔術に手を染めたと伝わる(伝承)。
- 改悔と入門:罪を悔いて マルパ を訪ねる。マルパはすぐに教えず、塔の建て直し など苛烈な労働で心身を「精錬」。
- 伝授と灌頂:ついに ナーローパの六ヨーガ、マハームドラー などの正統伝を授かる。
- 洞窟修行:ドラカル・タソ(白石の牙)、ラプチ雪山、ヨルモ(現ネパール・ヘルンブ地方) 等で単独修行。
- 悟りと教化:村人・狩人・行者に歌で教えを説き、ガンポパ と レチュンパ を育てる。
- 入滅:晩年に毒殺説など諸伝承があるが、大いなる安らぎのうちに入滅したと語られる。
史実として確かな編年は限られます。現在流布する物語の基本形は、15世紀の編者ツァンニョン・ヘルカ(ツァン派の「狂聖者」) が整えたものに負う部分が大きいと理解すると、学術的にも公正です。
師・弟子・系譜(カギュ派の幹)
- 師:マルパ・ロツァワ(1012–1097頃)
インドで ティローパ → ナーローパ の実修を受け、チベットへ伝えた訳経僧。ミラレパに対しては、行為の浄化(懺悔・労働)→伝授 の順で導く。 - 主要弟子:ガンポパ(1079–1153)
医師出身の僧。ミラレパの「実修の力」と カダム系の道次第(ラムリム) を統合し、ダクポ・カギュ の学風を確立。 - もう一人の嫡伝:レチュン・ドルジェ・ドラクパ(レチュンパ, 1083–1161頃)
隠遁修行 の系譜を強く継ぐ。 - 四大・八小カギュ へ:後代、ガンポパ門流を中核にカギュは大展開。ミラレパはその精神的支柱。
洞窟修行と「緑のミラレパ」
ミラレパは衣食住を極限まで切り詰め、洞窟での独居瞑想に徹しました。
食は蕁麻(イラクサ)ばかりで、「体が緑色になった」という伝承は象徴的表現として広く語られます。
代表的な修行地:
- ドラカル・タソ(白石の牙の洞窟):ラサ南方の行場。
- ラプチ(Lapchi):エベレスト街道西方の雪山地帯。
- ヨルモ(Yolmo/Helambu):現在のネパール北部、ヘルンブの山域。
これらは今日でも巡礼地として知られ、ミラレパの像・足跡・洞窟跡などが信仰を集めています。
代表的な実践:マハームドラーと六ヨーガ
- マハームドラー(大印)
「心の本性」を直接に見極める究竟の道。止観の統合を土台に、裸の気づきを明らかにする。 - ナーローパの六ヨーガ(六法)
トゥンモ(内なる熱)/夢/光明/中有(バルド)/幻身/ポワ(意識移送)。
ミラレパは洞窟修行の中で、身体エネルギーの鍛錬と空性の智慧を統合し、大楽と空の不二を体験したと語られます。
重要:これらはすべて正式な灌頂・伝授・戒(サマヤ) が前提です。独習は禁物。ミラレパの生涯も、師=マルパへの全的な帰依を通して完成しました。
『ミラレパ伝』と『十万歌』
- 『ミラレパ伝』(Mi la ras pa’i rnam thar)
ミラレパの生涯を物語として描いた代表的伝記。悔恨→師の試練→洞窟修行→悟り というドラマ性が、読者の心を掴みます。 - 『ミラレパの十万歌』
ミラレパが即興の歌(グル)で法を説いたとされる膨大な歌集。自然・日常・心の働きを比喩に、無常・空・菩提心を歌い上げる。
いずれも後世の整理(15世紀) を経ています。史料としては伝承でありつつ、修行の道を照らす鏡として読み継がれてきました。
ミラレパの思想キーワード
- 出離と菩提心:世俗への執着を離れ、すべての衆生を救う誓いを立てる。
- 空性と大楽の不二:煩悩を忌避するのではなく、智慧に転換する。
- 師資相承(グル・ヨーガ):師を仏と観ずる帰依の力が、道を開く。
- 簡素・持戒・勤行:洞窟の質素な暮らしは、心の自由のための選択。
よくある質問(FAQ)
Q1. ミラレパは本当に「黒魔術」を使ったの?
伝承では、青年期に呪術で人々を傷つけた悔いが語られます。歴史的検証の難しい部分ですが、物語の核は「深い悔悟と浄化を経て悟りに至った」という点にあります。
Q2. 歌は本当に即興だったの?
伝承は「即興」を強調します。現存の歌は後代の編纂を経ており、文学としての完成度が高いテキストに整えられています。
Q3. どの弟子が後継なの?
制度的後継というより、ガンポパ が学問・僧院の系統を大きく伸ばし、レチュンパ は隠遁修行の精神を強く継いだ、と理解されます。
Q4. どこに行けばゆかりの地を巡れますか?
ドラカル・タソ(ラサ南)/ラプチ(チベット~ネパール国境周辺)/ヨルモ(ネパール・ヘルンブ) が主な巡礼地。現地事情は常に最新情報を確認しましょう。
これだけは読みたい(参考図書ガイド)
- 『ミラレパ伝』(近現代訳多数)
- 『ミラレパの十万歌』(和訳・英訳ともに複数版)
- 研究書:ツァンニョン・ヘルカ の編纂と印刷文化、カギュ派史、マハームドラー 研究など
読む順番の例:①『ミラレパ伝』(物語で全体像)→ ②『十万歌』(思想のコア)→ ③マハームドラー入門書(実践思想の整理)
TIBET INORIの視点(まとめ)
ミラレパは、悔悟と精進 を通じて 「心の本性」 を覚った行者の原型です。
- 師への信頼(グル・ヨーガ)
- 質素で切実な日常修行
- 歌うように世界を慈しむ眼差し
これらは現代に生きる私たちにも、そのまま響きます。今日の10分の静坐と小さな親切――それが、ミラレパの歌が教える「まっすぐな道」です。
