三主要道(さんしゅようどう)は、ツォンカパ(Tsongkhapa, 1357–1419)がまとめた悟りへの必須三要素。
- 出離(出離心):輪廻(生老病死の反復)から本気で抜け出したい心
- 菩提心:一切衆生を苦から救うために完全な悟り(仏果)を求める心
- 正見:空性(くうしょう/無自性)の正しい理解
この三つが同時に成熟するとき、修行はまっすぐ・迷いなく進みます。
ツォンカパは、倫理(戒)→集中(定)→智慧(慧)を段階的に積み上げるラムリム(道次第)の中核に、この三主要道を据えました。
目次
1. 出離(出離心)―「抜け出したい」という方向確定
定義
出離とは、快楽否定ではなく、無常・苦・無我を正しく観じた結果として生まれる自由への希求。
「このままではまた苦を繰り返す」という輪廻観が、修行の原動力になります。
典型的な観想(分析瞑想)
- 人身受け難し:いまの条件は稀有で尊い(学びのチャンス)
- 無常:命・関係・所有は常に変化する
- 業(カルマ)と因果:因があれば果が生じ、行為は結果をもたらす
- 輪廻の全体像:どこに生まれても究極の満足は得られない
日常での実践
- 1日の初めと終わりに無常リマインド(「今日が最後でも悔いのない選択か?」)
- 行動前に因果チェック(「この言葉・行為は未来の私と他者に何をもたらす?」)
2. 菩提心 ― 利他を動機の中心に置く
定義
菩提心は、すべての存在を苦から解放するために自ら仏果を目指す動機。利他愛と究極目標がワンセットです。
育て方(二大メソッド)
1) 因果からの七支因果(七因果教授)
- 母想→恩想→報恩→慈→悲→大悲→菩提心へと深める道
2) 自他を等しく観じ、自己と他者を入れ替える(等引・自他交換) - 自他平等→他者を自分のように大切に→自他交換→菩提心
日常での実践
- 朝一番の発願:「願わくは、今日出会うすべての人が幸せでありますように。」
- 衝突時の再フレーミング:「この相手の苦は何か? 何を与えれば楽になるか?」
3. 正見 ― 空性(縁起)を誤りなく理解する
定義
正見とは、事物に固定不変の自性はない(無自性)という、中観(プラーサンギカ)の立場に立つ理解。
縁起(相依性)だからこそ因果も倫理も機能する――この二諦(俗諦/勝義諦)の両立が肝心です。
代表的な分析(例)
- 四句分別の破斥:有/無/有無倶/有無不離の極端を否定
- 部分と全体の分析:自我や物は部分と関係に依存してしか成り立たない
- 因果と空性の両立:「空だから因果が有効」=空性は“何もない”ではない
瞑想のすすめ
- 分析瞑想(ヴィパシャナー):上の分析を行い、概念上の堅固な実体視をほどく
- 止(サマタ):静かな集中を育て、洞察の安定を得る
- ワンポイント:理解→確信→馴染ませの順で、短時間でも毎日行う
4. 三主要道は「同時に」育てる
三主要道は直列ではなく並列で成熟します。
- 出離だけ強い → 孤立や厭世に傾きがち
- 菩提心だけ強い → 善意の空回りに陥りがち
- 正見だけ強い → 観念化や冷淡さのリスク
最小セット:
- 朝:短い出離と菩提心の発願
- 瞑想:呼吸で止→空性の要点で観
- 夜:一日の因果レビュー(喜・悔・明日への意図)
5. ラムリム(道次第)の中の三主要道
ツォンカパは、次の学びの段階に三主要道を織り込みました。
- 善い土台(戒):悪を離れ善を積む(世俗の因果を整える)
- 止(定):心を一点に落ち着かせる
- 観(慧):空性に関する正見を深める
- 大乗の動機:菩提心を完成させる
- 密教(相応者):顕教の完成を土台に、清浄な現れと空性の不二を体験化
6. よくある誤解と修正ポイント
- 「出離=世捨て」ではない:むしろ社会の中でより賢く生きる自由を得る姿勢。
- 「菩提心=自己犠牲」ではない:自己統合(心身の健全)を前提に、最善の利他を選ぶ。
- 「空=無」ではない:空性は縁起の別名。空だから因果が成り立つ。倫理はますます重要。
- 「理解=悟り」ではない:理解→瞑想→体験化→習慣化がセット。毎日の反復が鍵。
7. すぐに始められる三つの実践(初心者向け)
- 朝30秒の発願:
- 「今日の言葉と行いが、誰かの苦を軽くしますように。」(菩提心)
- 昼の“止”30呼吸:
- スマホを置き、姿勢を整え、呼吸にだけ注意(出離の方向性を思い出す)
- 夜の因果レビュー3行:
- ①善かった言葉/②修正したい言葉/③明日の意図(正見に照らす)
用語解説
- 三主要道:出離・菩提心・正見。ツォンカパが示した悟りの三要素。
- ラムリム(道次第):戒→定→慧を段階的に修するチベット仏教の体系。
- 空性(無自性):事物は固定実体を持たず、縁起によって成立。
- 中観(プラーサンギカ):空性を徹底して論証する立場。
- 七因果教授/自他交換:菩提心を育てる二大メソッド。
Q&A(簡潔版)
Q. 学問(正見)と瞑想、どちらを先に?
A. 両輪です。基本理解→短時間の止観をセットで毎日行うのが最短ルート。
Q. 日常の忙しさでも続けられる?
A. 30秒の発願・30呼吸の静座・3行レビューで習慣化を。短くても毎日が最大の近道です。
まとめ ― 「心の方向・動機・理解」をひとつに
出離で方向が定まり、菩提心で推進力が生まれ、正見が進むべき道を照らします。
三つが響き合うとき、修行は無理なく・静かに・確実に前へ進みます。
今日の小さな一歩から――あなたの祈りと学びが、世界の誰かの笑顔に必ずつながります。
TIBET INORI


ツォンカパ(Tsongkhapa, 1357–1419)とは ― ゲルク派の祖師/学戒双修と中観思想を確立した大碩学
ツォンカパ(Tsongkhapa, 1357–1419)を解説。ゲルク派の祖師として、学問と戒律を両立させた学戒双修や中観思想の体系化で知られる大碩学の生涯と教えを紹介します。
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