「大乗仏教(だいじょうぶっきょう)」は、仏教を大きく捉えるときに必ず出てくる重要な言葉です。
大乗仏教は、出家者だけの修行に限らず、在家を含めたあらゆる人が「悟り(仏の境地)」を目指し、同時に他者の幸せを願う――その理想を掲げて発展してきた仏教の総称です。
この記事では「大乗仏教とは何か」を、歴史・思想・実践(六波羅蜜)・上座部仏教との違い・チベット仏教との関係まで、できるだけ正確にわかりやすく解説します。
大乗仏教の意味(マハーヤーナ)―「大きな乗り物」
大乗仏教はサンスクリット語で Mahāyāna(マハーヤーナ) といい、
Mahā(大きい)+ yāna(乗り物) が語源です。
ここでいう「乗り物」は、悟りへ至るための道・方法をたとえたもの。
大乗仏教は「多くの人を乗せて渡す、大きな乗り物」という比喩で、自らの理想を表現しました。
「小乗」という言い方について
大乗仏教の対比で「小乗仏教」という言葉が使われることがありますが、これは歴史的に 大乗側が他を低く呼んだ蔑称 とされ、現代では避けるのが一般的です。
現在は、東南アジアなどで広く信仰される伝統を 上座部仏教(テーラワーダ) と呼ぶのが基本です。
大乗仏教の歴史 ― いつ、どこで生まれたのか
大乗仏教は、インドで西暦紀元後に興起した新しい形態の仏教とされます。
年代や成立の詳細には学術的議論もありますが、一般的には 紀元後1世紀前後から大乗経典が現れ、運動として広がっていった という理解がよく示されます。
その後、大乗仏教はシルクロード交易圏を通じて中央アジアへ、さらに中国・朝鮮・日本・ベトナムへと広がり、東アジア仏教の大部分を形づくりました。
またインドで発達した密教(タントラ仏教)が大乗を土台に体系化され、チベット仏教(チベット密教/金剛乗)へつながっていきます。
大乗仏教の中心思想① 菩薩(ぼさつ)と菩提心(ぼだいしん)
大乗仏教の最大の特徴は、菩薩(bodhisattva) という理想像です。
菩薩とは「自分だけの解脱(悟り)ではなく、すべての存在の幸せのために悟りを求める者」を指します。
その原動力が 菩提心(bodhicitta)。
菩提心は一言でいえば、**「自他を救うために悟りを目指す利他の決意」**です。大乗仏教はこの心を育てることを非常に重視します。
大乗仏教の中心思想② 空(くう)と般若(はんにゃ)
大乗仏教では、慈悲(利他)と並んで 智慧(般若) が決定的に重要だとされます。
その智慧の核心が 空(śūnyatā:あらゆるものは固定した実体をもたない) という理解です。
「空」は“何もない”という虚無ではなく、
すべての現象は因縁によって成り立ち、単独で不変の本質をもつわけではない――という洞察です。
この理解が深まるほど、執着がほどけ、慈悲が自然に広がると説かれます。
大乗仏教の中心思想③ 方便(ほうべん)― 人に合わせて教えを使い分ける
大乗仏教では 方便(upāya:巧みな手段) も重要なキーワードです。
人の性格・環境・理解度はそれぞれ違うため、同じ真理でも「伝え方・実践の入り口」は変わる――という考え方です。
この発想が、さまざまな経典・修行法・信仰形態(念仏、禅、真言、観音信仰など)の多様性を支えてきました。
大乗仏教の実践 ― 六波羅蜜(ろくはらみつ)
大乗仏教の実践は「菩薩行(ぼさつぎょう)」とも呼ばれ、代表が 六波羅蜜 です。
六波羅蜜(六つの到達の修行)
- 布施(ふせ):与える・分かち合う
- 持戒(じかい):倫理・節度を保つ
- 忍辱(にんにく):耐える・受け止める
- 精進(しょうじん):怠らず続ける
- 禅定(ぜんじょう):心を静め集中する
- 般若(はんにゃ):智慧(空の理解)
六波羅蜜は「良い人になるための道徳」ではなく、
慈悲と智慧を完成させ、悟りへ向かうための具体的なトレーニングとして位置づけられます。
上座部仏教との違いは「対立」ではない
大乗仏教と上座部仏教は、しばしば違いだけが強調されますが、本来どちらも仏教であり、共通する基盤があります(四聖諦、縁起、戒・定・慧など)。
大きな違いとして語られやすいのは、
- 大乗:菩薩を理想とし、衆生救済を前面に出す
- 上座部:個人の解脱(阿羅漢)を重視する傾向が強い
といった「目標設定の語り方」です。
ただし実際には、上座部にも慈悲の実践はあり、大乗にも厳格な修行があります。
「優劣」ではなく「伝統と表現の違い」として理解するのが健全です。
チベット仏教との関係 ― 大乗を土台に密教が積み上がる
チベット仏教は一般に、
大乗仏教(菩提心と空)を土台に、密教(タントラ/金剛乗)の実践体系が発達した伝統と整理されます。
つまり、チベット密教(タントラ)を理解するためにも、
大乗仏教の基本――「菩薩」「菩提心」「空」「六波羅蜜」を押さえることがとても重要です。
現代における大乗仏教の意味
現代の私たちにとって、大乗仏教が示す価値は大きく分けて二つあります。
- 利他(慈悲)の実践:人と社会の中で心を育てる
- 執着をほどく智慧:空・縁起の理解で苦しみの根を見つめる
「自分の心を整えること」と「誰かの幸せを願うこと」を両立させる点で、大乗仏教は今の時代にも強い示唆を与えてくれます。
よくある質問(FAQ)
Q. 大乗仏教は“在家向け”の仏教ですか?
在家も含めて広く救済を掲げたことは特徴ですが、大乗にも出家修行・僧院教育はあります。
Q. 大乗仏教の代表的なお経は?
般若経・法華経・華厳経・阿弥陀経など、東アジアに伝わった大乗経典は多数あります(宗派によって中心経典は異なります)。
Q. 「空」は難しい。どう理解すればいい?
まずは「すべては縁で成り立つ(縁起)」を日常で観察することが入口になります。理解は一気にではなく、学びと実践の積み重ねで深まります。

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