「正月」と聞くと、日本では“新しい年を祝う日”というイメージが強いかもしれません。
一方、チベット仏教圏の正月 ロサル(ロサール / Losar / チベット正月) は、祝祭であると同時に、祈りを整え直し、心をリセットし、あらためて願いを立て直す日として大切にされてきました。
この記事では、チベット仏教の正月がなぜ「祈り直す日」になったのかを、ロサルの流れ(準備期間〜三日間の中心儀礼)とセットで、できるだけ正確に解説します。
ロサル(Losar)とは?|チベット仏教圏の“新年”であり“更新”の行事
ロサルは「チベット正月」と訳されることが多く、チベット文化圏(チベット、ネパール、インドのチベット系コミュニティなど)で祝われる新年の祭りです。地域や伝統により祝う日程や長さに幅がある一方、最初の3日間は特に重要とされます。
そしてロサルは“ただの年越し”ではなく、
浄化 → 祈願 → 共同体の祝福が一つの流れになった行事です。
ロサルはいつ?|チベット仏教の正月の日付が毎年変わる理由
「ロサルって、いつ祝われるの?」
これは、チベット仏教の正月について多くの人が最初につまずくポイントです。
結論から言うと、ロサルの日付は毎年変わります。
ロサルは「太陰太陽暦」に基づく正月
チベット仏教の正月ロサルは、
チベット暦(太陰太陽暦) に基づいて決められます。
これは、
- 月の満ち欠け(太陰)
- 太陽の運行(太陽暦)
の両方を考慮する暦で、日本の旧暦や中国暦と同じく、
西暦の固定日(1月1日など)には一致しません。
そのためロサルは、
👉 例年2月上旬〜3月上旬ごろ
に訪れることが多くなります。
2026年のロサルは、
2026年2月18日水曜日から2026年2月20日金曜日まで
です。
地域や伝統によって日付が異なることもある
「ロサルは〇月〇日」と一言で言えない理由は、もう一つあります。
それは、地域や宗派、伝統によって暦の計算や祝うタイミングが異なるためです。
たとえば:
- チベット(ラサ周辺)
- ネパールのチベット系コミュニティ
- インド(ダラムサラなど)の亡命チベット社会
- モンゴル(ツァガーンサル)
これらは同じチベット仏教文化圏でも、
1日〜数週間ずれることがあります。
ただし、いずれも共通しているのは、
「年が変わる瞬間を祝う」というより
「祈りと生き方を更新する節目」
として正月が捉えられている点です。
ロサルは「1日だけ」ではない
もう一つ大切なのは、
ロサルは “1日で終わる行事ではない” ということ。
一般的には、
- 正月前:浄化・厄落とし(グトル)
- ロサル初日〜3日目:祈りと祝福の中心期間
- その後:15日ほど祝祭や法要が続く地域もある
という流れで捉えられます。
つまりロサルは、
「この日が正月です!」という点ではなく、
祈りの流れが切り替わる“期間”
として理解すると、チベット仏教の感覚に近づきます。
現代的にどう捉えればいい?
現代に生きる私たちがロサルを意識するなら、
- チベット暦の正月前後(2〜3月)を
「祈り直すタイミング」として意識する - 年に一度、
- 心を整え
- 願いを立て直し
- 誰かの幸せを願う時間を持つ
それだけでも、ロサルの本質に十分触れています。
ロサルは「決まった日に何かをしなければならない日」ではなく、
祈りを更新する“合図”なのです。
結論:なぜロサルは「祈り直す日」なのか?
チベット仏教の正月が「祈り直す日」として機能してきた理由は、大きく3つに整理できます。
1)古い年の“滞り”を浄化し、祈りを通りやすくするため(リセット)
ロサルの前には、家や心の“汚れ・厄・障り”を落とす浄化の期間が置かれます。これは「新年を清らかな状態で迎える」という意味だけでなく、祈りが届く土台を整える行為でもあります。
2)功徳(善い流れ)を積み、新年の方向性を定めるため(更新)
チベット仏教では、祈りや供養、善行によって「功徳」を積み、それを回向(他者の幸せへ向ける)する発想がとても大切です。
ロサルは、新しい一年の“方向性(祈りのベクトル)”をもう一度セットし直す日になります。
3)共同体(家族・僧院・地域)で“祈りのリズム”を揃えるため(同期)
ロサルの祈りは、個人の願いだけでなく、家族や地域、僧院共同体の祈願と一体で行われます。
だからこそ、正月は「みんなで祈り直す日」になり、暮らしの中の祈りが毎年アップデートされていきます。
ロサルの前に行われる“浄化の時間”|グトル(Gutor)と年末の準備
ロサルの核心は「新年当日」だけではなく、前段の浄化にあります。
年末には、家の大掃除や供えの準備が進み、僧院では障害を取り除く儀礼が行われることがあります。特に「グトル(Gutor)」として知られる年末儀礼の期間には、災厄や障害を払い、環境を清める趣旨の修法や儀礼舞踊(チャム)などが行われることがあります。
グトゥク(Guthuk)|“厄落とし”のスープで一年を締める
ロサル前の象徴的な食習慣としてよく知られるのが グトゥク(グトゥク/Guthuk)。
年末に食べられる特別なスープ(トゥクパ)で、過ぎた一年の不運・否定的なものを払い、新年を吉祥に迎える意味を持つ儀礼的な要素が語られます。
ここがポイントです。
ロサルは「おめでとう」で始まる前に、まず “いらないものを落とす”。
だからこそ正月が“祈り直し(リスタート)”として成立します。
ロサル最初の3日間|何をする?(Lama/Gyalpo/Chokyong)
地域差はありますが、伝統的にロサルの最初の3日間は特に重要とされ、次のように説明されます。
1日目:ラマ・ロサル(Lama Losar)|まず僧(法)に挨拶し、祈りを立て直す
ラマ・ロサルは、僧院を訪ねてラマ(師僧)に敬意を示し、加持や祝福を受ける日として語られます。
「新年の最初に何を優先するか?」という問いに対して、チベット仏教圏はまず “法(ダルマ)と師” を置きます。
ここに、“祈り直しの正月”という性格が最も強く表れます。
2日目:ギャルポ・ロサル(Gyalpo Losar)|公的な祝祭と共同体の祈願
2日目は ギャルポ(王)・ロサルとして、公的な祝賀や共同体的な儀礼が行われる日と説明されます。
個人の願いが、社会(共同体)の祝福へと広がり、みんなの一年を“良い方向へ”揃えていく日になります。
3日目:チョキョン・ロサル(Chokyong Losar)|守護尊への供養、祈りの拡散
3日目は チョキョン(守護)・ロサルとして説明されることがあります。
この頃に、祈りの旗(タルチョ/祈祷旗)を新しく掲げたり、煙供(サン/サンチョ)などの浄化・供養儀礼が行われることも語られます。
ここは「祈り直す日」というテーマで非常に重要です。
祈りを“心の中”だけに置かず、風・煙・光(灯明)といった“形”を通して外へ広げ直す。
チベット仏教らしい更新の感覚が詰まっています。
ロサルに見られる“祈り直し”の作法|浄化・供養・誓願
ロサルの実践を細かく見ると、「祈り直し」を構成する要素がはっきりします。
浄化:負の流れを切り、心身と場を整える
- 年末の掃除・整理
- 障害除去の修法(僧院儀礼)
- チャム(仮面舞踏)が“障害を祓う儀礼”として語られることもある
供養:灯明・香・煙供などで功徳を積む
- バターランプ(灯明)
- 香・お供え
- 煙供(サン/サンチョ)や祈祷旗の掛け替え
誓願:新年の「心の方向性」を立て直す
- 僧院へ挨拶し、祝福を受ける(ラマ・ロサル)
- マントラを唱え、意図を整える
- “誰かの幸せを願う”という発想を新年の最初に置く(回向)
これらがセットになることで、ロサルは単なるイベントではなく、祈りの再起動(リブート)になります。
現代の私たちにとってのロサル|「祈り直す」は、習慣として取り入れられる
現代に生きる私たちにとって、宗教的な儀礼は距離があるかもしれません。
でもロサルの核心は、とても普遍的です。
- 片づけて、呼吸を整える
- 「今年どう在りたいか」を言葉にする
- 誰か一人の幸せを具体的に願う
- 小さな習慣(灯り、香、短い祈り)を置く
つまりロサルは、
新年に“祈り直す=生き方を整え直す”ための知恵として、宗教を超えてヒントになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. ロサルは何日間続くの?
地域差がありますが、ロサルは広い地域で祝われ、15日程度の祝祭として説明されることもあります。特に最初の3日間が重要とされます。
Q2. ロサル前に“浄化”が強調されるのはなぜ?
新年を清らかな状態で迎えるため、そして一年の障害を取り除くためです。年末に行われるグトル(Gutor)儀礼や関連行事が、障害除去・環境浄化の文脈で語られることがあります。
Q3. 「祈り直す」って、結局なにをすること?
一言でいえば、浄化して、功徳を積み、願い(誓願)を立て直すことです。
ロサルはそれを、家族・僧院・地域が同じリズムで行う“更新の節目”として機能してきました。
TIBET INORIとのつながり|祈りを「形」にして、また新しく始める
チベット仏教の正月が教えてくれるのは、
祈りは“特別な日だけのもの”ではなく、暮らしの中で何度でも立て直せるということです。
マニ車、ガウ、タルチョ、灯明…。
祈りの道具は、信仰を押しつけるためではなく、
心を整え、願いを思い出し、祈り直すための“きっかけ”として存在してきました。
新しい一年のはじまりに、祈りをもう一度、静かに整える。
ロサルは、そのための美しい知恵です。

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